カステラ書房の毎日

〝令和きってのドラマウォッチャー〟阿倍カステラが所属する『カステラ書房』

恋愛偏差値 小学生レベル? 鹿子の〝赤い実はじけた〟ドラマ『文学処女』第3話

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☆ドラマ『文学処女』第3話より

MBS 2018年9月-10月 放送


【基本的に全編ネタバレ】




「あのまま逃げるように出てきちゃったけど、つまりその‥」

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「致してしまったんだろうか? 」

 

昨夜ホテルで、同じベッド(しかも裸。鹿子は辛うじてキャミソール姿)で、担当を受け持つ作家・加賀屋朔(城田優)と一夜を共にした月白鹿子(森川葵)。

翌日、勤務先の自分のデスクで頭を抱えながら昨夜の事を思い出そうとするが記憶がない。なんとしても記憶を確認したいのは鹿子にとって一番の問題「致してしまったか否か」。頭のなかでぐるぐると自問自答する。

 

 

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朝目覚めた時、ベッドの中での加賀屋の「刺激的な夜をありがとう」がフラッシュバックする。

「と、いうことは致して‥」

 

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興奮してデスクに振り下ろした手が電話機にぶつかり、「致してしまった」が「痛い」に変わる。ここらへんの演技、何遍も言っちゃって悪いけど『賭ケグルイ』の早乙女芽亜里を思い出すなあ。それと、第2話を取り上げた回で大事なことを言い忘れたんだけど、森川葵さんって一人語りや妄想するシーンとかこういう顔を崩して演技する時の、顔の崩し方というか動かし方がすごい。顔のパーツがそれぞれ別の動きをしてて、自由自在に操れてんじゃないかって思うくらいに表情豊かなんだよね。

 

 

同僚の望月千広(中尾暢樹)とサイン会開催のお願いに加賀屋の自宅に向かう鹿子。

道すがら、「昨日なんかあった? 」と望月。「なんにもない」 と慌てて否定する鹿子に、「その服、昨日も着てなかった? 」って。

そんなに昨日着てた服憶えてるもんかね。 憶えてたにしても、そんなに直接的に聞く? どうですかお客さん?

 

 

◇加賀屋の自宅

 

文学賞受賞発表の〝待ち会〟での自身の発言を、望月と共に詫びる鹿子。「気にしてないよ、そそられたし」と加賀屋はその後に打ち合わせもしたのだと望月にバラす。「すごかったんだよ彼女」と。

鹿子は大慌てで「あ〜〜あ〜〜」とごまかし(それでごまかせるハズもないけど)、話を強引にサイン会に逸らす。ちなみにサイン会はあっさり断られた。

 

鹿子がお茶を準備しに席をはなれると、「あの後、月白と居たんですね」と切り出す望月。「彼女に何かしたのなら、同僚として見過ごせません」

「編集部で誰よりも本に熱いやつなんです。加賀屋さんの気まぐれで、彼女をつぶすのはやめていただきたい」と望月。

 

 

台所から食器を割った音がしてカットが変わった瞬間の鹿子がすでに可笑しい。

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割れた湯呑みを前にしゃがみ込んで、「もう編集者人生終わりだ〜」と落ち込む鹿子。

そしてここからが森川葵の真骨頂。妄想一人芝居が始まる。

加賀屋が言った「すごかったんだよ、彼女」の言葉を思い出し「私、何やったの? 」と目をくるくる動かして、「もしかして、処女のくせに‥」と妄想を炸裂させ、

 

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「そんな技術ないやろ! 」

 

そんな鹿子の姿をだいぶ前から見ていた加賀屋は「君は本当に感情の起伏が激しいね」と背後から声をかける。

 

「先生! 」と我にかえりすぐに体勢を土下座に切り替えて「弁償します! 」と、ようやく湯呑みを割った出発点に戻る。

 

ドラマのヒロインは割った食器で必ず指を切る、というのは相場が決まってるのだけど、このドラマの妄想ヒロインは実際に指を切った後、加賀屋に指を舐められた昨夜の出来事がフラッシュバックし、またも指を舐められその手を引っ張られ台所のテーブルの上に押し倒されキスをされるという妄想へと発展させる。

 

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加賀屋に「なんか想像してたの? 」と聞かれ再び我にかえる。

 

 

「あの、私、先生と情事してしまったんでしょうか? 」と鹿子。「情事って」と笑い、からかいもする加賀屋だが、鹿子が真剣に訊ねていることに気づき「してない」と答える。でもキスをしたのは事実で、それも鹿子からしてきたのだと明かす。

その事実に気が動転してる鹿子に「今度は僕から」と加賀屋がキスをするように顔を近づける。

 

一人居間で待っていた望月。またしても台所から音がしたので二人の元へ駆けつける。

 

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「なんでもありません」と妄想ヒロイン。なんでもないはずがない状態の二人。鹿子は加賀屋の頭をお盆で殴ったのだ。

 

 

 

◇加賀屋の自宅 玄関

 

 「先生、サイン会やりましょう! 」

「だから、やらないって」

「先生、これ私の宝物です。ツルガスバル先生のサイン本です。高校生の時買いました」

 

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「先生、知っていますか? 先生の新刊1,500円するんです。学生さんにとって1,500円ってそれなりの額だと思うんです。月3,000円の小遣いで、文庫本になるまでなんて待てなくて、お昼ご飯我慢して本代にして、そんな読者の方々にとって、サイン本は宝物なんです」

 

「先生。先生の新刊を本当に待っていてくれてる読者の皆さんと、一度顔を合わせて見ませんか? 先生がさらに飛躍するために、絶対にプラスになると思います」

 

一度は帰りかけた橋の上。先日貸したそのサイン本を望月から返してもらって、「私の宝物」とその本に頬ずりをしてハッと気づき、加賀屋の自宅に戻ってきて「先生、サイン会やりましょう! 」と話始めてから、その鹿子の話を聞いて加賀屋が眼鏡のフレームに手をあてるカットまでの台詞は、文字にして約260字。

 

「じゃーん、宝物にするんだ」と加賀屋朔のデビュー作が掲載された『文學春愁』を手に微笑む女性。その雑誌の表紙にはサインペンで書かれたと思われる「加賀屋朔」の4文字。

 

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加賀屋はそれを思い出して鹿子に「わかったよ、やるよサイン会」と返事する。

 

「本当ですか? ありがとうございます」と礼を言ってから、神妙な面持ちで畏って「昨晩の接吻の件、申し訳ございませんでした」と詫びた。

鹿子が去った後加賀屋は、ふふと口角に小さな笑いを浮かべて「謝られちゃったよ」と呟いてた。

 

 

 

◇月白鹿子のアパート

 

「私のファーストキス、加賀屋先生? 」

ベッドの上でぬいぐるみ抱えてまた自問自答してる鹿子。

 

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「うああ〜〜あ〜」と体を大きく左右に揺らしながら心の中で叫び、「なんで? 私加賀屋先生のこと好きなの? そもそも好きって何? あ〜も〜なんでそういうの中学とか高校で済ませておかないんだよ〜」

急に思い出してベッドから本棚へと忙しい鹿子。

 

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「近所のお姉さんが教えてくれた。初恋の物語」小学生の頃の回想シーン。

「好きってどういうこと? 」(小学生の鹿子)と聞くとそのお姉さんがくれた一冊の本(実在する本)。

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『赤い実はじけた』名木田恵子

 

「それはまったく突然。急に胸が苦しくなって。パチン。思わず飛び上がるほど大きな音を立てて、胸の中で何かがはじけたのだ」

 

「違う違う。パチンなんて音してない」と小学生の教科書にも掲載されているその作品で自分のそれが、恋かどうか確認する鹿子。この子はだいぶこじらせてる。

 

◇サイン会 会場設営

加賀屋のサイン会の設営をしている鹿子。その姿を近くで眺めている加賀屋。鹿子が控え室に行くよう声かけすると、「だって働いてる姿、そそられるから」。

 

ステージ場に上がろうとして足を引っかけて倒れそうになった鹿子を咄嗟に下になって受け止めた加賀屋。その時自分の体をかばってついた利き手(左)を捻り怪我をする。

 

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☆サインする利き手を怪我するという王道パターン

 

控え室。「写真撮影のみでサイン会は中止する」と言う望月と、ただただ謝る鹿子らに「やるよ、サイン会」と加賀屋。さらに鹿子を見て「読者のためなんだろ? 」

貼っていた湿布を剥がし会場へ向かう加賀屋。

 

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サイン会は大盛況。中には握手を求めて強引に加賀屋の痛めている左手を握るファンも。ファンは怪我してることを知らない。次第に痛みに耐えられなくなりペンを落とす場面もあり。その姿を不安そうに見つめる鹿子。怪我を隠しマウンドに上がるエースピッチャーと、その怪我に気づいたマネージャーのごとき王道パターン。

 

サイン会も無事終わり、帰り際にサイン会で販売していた自身の書籍本を鹿子に渡す加賀屋。鹿子が「私、持ってます」と言うと、加賀屋は「お小遣い月3,000円のファンの子に」と言って会場を後にした。実にカッコ良すぎる去り方だ。

 

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☆そこにはサインが

 

感動する鹿子。その本を閉じてもなお、その気持ちは治まらない。

「えっ、何これ何これ? 胸が、パチンって言ってる」

 

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 原稿用紙に「女はその時、恋を知った」と書かれる。

 

まさしく鹿子にとっての赤い実がはじけた瞬間だった。

 

 

〈 おしまい 〉

第4話へつづく